[NECフェロー 今岡仁 氏に学ぶ] 生成AI活用におけるグレーゾーンにどう立ち向かうか」ウェビナー開催レポート

5月21日(木) 、株式会社AI共創総研は、NECフェローの今岡仁氏をゲストに迎え、「生成AI活用におけるグレーゾーンにどう立ち向かうか 〜企業の競争力を強化するためのAI倫理・AIガバナンス戦略〜」をテーマとしたウェビナーを開催いたしました。
当日は、AI推進部門、DX推進部門、情報システム部門、法務・コンプライアンス部門など、多様な立場の方々にご参加いただきました。
生成AIの活用が急速に広がる一方で、多くの企業では「どこまでが許容されるのか分からない」「法律やルールが未整備で判断に迷う」といった不安を抱えています。実際の現場では、著作権、個人情報、ハルシネーション、説明責任、バイアスなど、従来のIT統制とは異なる論点への対応が求められるようになりました。
しかし、これらの領域は、まだ社会的なコンセンサスや判例、明確なベストプラクティスが十分に整備されているとは言えません。その結果、「問題になるくらいなら使わない方がいい」という空気が現場に生まれ、AI活用そのものが停滞してしまうケースもあります。
今回のウェビナーでは、そうした“グレーゾーン”に対して、企業はどのように向き合うべきなのかをテーマに議論を行いました。
生成AIにおけるグレーゾーンへの向き合い方を実務ベースで解説
前半パートでは、株式会社AI共創総研 代表の藤井より、「生成AIにおけるグレーゾーンとは何か」というテーマで講演を行いました。まず「そもそもAI倫理とは何か」というテーマから整理を行いました。
生成AIの活用が急速に広がる中で、企業では著作権、個人情報、ハルシネーション、説明責任、バイアスなど、従来のIT統制とは異なる論点への対応が求められるようになっています。一方で、こうした領域に対する法整備や社会的ルールは、まだ十分に整っているとは言えません。実際、AIに関する法制度は各国で整備途上にあり、技術進化のスピードに対してルール形成が追いついていない状況が続いています。その結果、多くの企業では、「どこまでAIを活用してよいのか分からない」「問題になった時の責任範囲が不透明」といった不安が生まれています。

ただ、我々として今回特にお伝えしたかったのは、「グレーゾーンが存在するからAIを使わない」という考え方ではなく、“グレーゾーンが存在する前提で、どうAIを活用していくか”を考える必要がある、という点です。
生成AIの領域では、全てを事前に白黒で整理することは困難です。倫理観は、地域、文化、世代、価値観、社会情勢によって変化します。そのため、「何が正しいのか」という物差し自体が固定できないケースも少なくありません。 だからこそ企業には、「正解を待つ」のではなく、自律的に判断し続ける力が求められます。

今回の講演では、その前提に立った上で、AIガバナンスをどのように企業へ実装していくべきかについてもお話ししました。
特に重要なポイントとして挙げたのが、「ビジョンの策定」、「仕組みづくり」、「仕組みを回せる状態」の3つです。

単にAIガイドラインを作るだけでは、AIガバナンスは機能しません。AI活用に関する組織としての価値観や方針を定めた上で、レビュー・承認プロセス、役割分担、判断基準などを整備し、さらに教育・モニタリング・改善まで含めて継続運用していく必要があります。
また、ウェビナー内では、AIガバナンス組織を“ハブ機能”として設置し、法務、品質管理、情報セキュリティなどの専門部門と連携しながら運用していく体制イメージについても解説を行いました。

我々としては、AIガバナンスとは「AI活用のブレーキ」ではなく、「企業が安心してAIを前に進めるための仕組み」だと考えています。そのため、単なるリスク回避ではなく、「AI活用推進と統制をどう両立するか」という視点が、今後ますます重要になると考えています。
NEC今岡氏のセクション:AI倫理・AIガバナンスの実践
講演では、AIやデジタル技術の社会実装が進む中で、従来の法制度やガイドラインだけでは整理しきれない論点が増えていることについてお話しいただきました。特に、今後の企業には、「法律上問題ないか」だけではなく、「社会からどのように受け止められるか」まで含めて考える視点が求められる、という点が非常に印象的でした。
講演の中では、「法・ルール・ガイドラインの根底には、エシックス・文化・社会が存在する」という考え方も紹介されました。これは、制度やルールだけを整備しても十分ではなく、その背景にある価値観や社会との関係性まで含めて考える必要がある、というメッセージです。
また、NECで活用されている「Digital Ethics Compass」についても紹介がありました。このコンパスは、単なるコンプライアンスチェックシートではなく、「本当に社会にとって望ましいデジタルサービスなのか」を議論するためのツールとして設計されています。

講演では、
- ユーザーを意図的に操作するような設計になっていないか
- ユーザーは自分のデータをコントロールできるか
- アルゴリズムに偏見はないか
- 自動化が失敗した時に人間が介入できるか
といった問いが紹介されました。
特に印象的だったのは、「エシックスは抽象論ではなく、問いを通じて議論するための方法論である」という考え方です。“正解”を定義するのではなく、多様な立場の人たちが議論するための起点を作ることこそが重要である、というメッセージが強く伝わってきました。
後半では、日本国内における消費者意識調査についても紹介がありました。講演では、約8割の消費者が「AIやデータを活用したサービスに対して不信感を抱いた経験がある」と回答していることが共有されました。また、その背景として、企業と消費者の間に存在する“認識ギャップ”についても説明がありました。

(出典:NEC『AI時代に変化する消費者意識調査2025』, https://jpn.nec.com/dx/consumer_survey/index.html)
企業側としては、データ活用やAIによるパーソナライズ、UX改善などを通じて利便性向上を目指している一方で、消費者側では「知らない間に操作されているのではないか」「データが一方的に利用されているのではないか」という不安が生まれているという話です。
具体例として、以下のような体験に対して、不誠実さを感じる消費者が多いことも紹介されました。
- 個人情報の扱いが分かりづらい
- 解約や退会の導線が複雑
- 操作を意図的に難しくしているように感じる
- 意図しない課金への不安がある
これらは単なるUI/UXの問題ではなく、「企業が利用者よりも自社利益を優先しているように見える」という感覚につながっており、結果としてブランドへの不信感や離反を引き起こしている、という点が非常に印象的でした。

(出典:NEC『AI時代に変化する消費者意識調査2025』, https://jpn.nec.com/dx/consumer_survey/index.html)
最後に今岡氏は、「テクノロジーとエシックスは両輪である」というメッセージで講演を締めくくられました。 エシックスは、テクノロジーのブレーキではなく、社会実装を前に進めるための基盤である。

そのメッセージは、今回のウェビナー全体を通じて我々が伝えたかった、「AI活用推進と統制をどう両立するか」というテーマとも重なる内容だったと感じています。
パネルディスカッション・質疑応答
後半では、事前質問をもとにしたパネルディスカッション・質疑応答を実施しました。当日は、AIガバナンスを実際に運用していく立場ならではの、非常に実務的な質問を多数いただきました。
例えば、
- グレーゾーン判断の属人化をどう防ぐか
- インシデント発生前提でどのように組織設計すべきか
- 自治体におけるデジタルエシックス整備
- 個人情報保護法や外国第三者提供への対応
- AI活用推進と統制をどう両立するか
といったテーマについて、登壇者から回答を行いました。 本記事ではすべての質疑応答内容をご紹介することはできませんが、一部抜粋してご紹介いたします。
「グレーゾーン判断が属人的になってしまう」という課題について
まず議論になったのが、「グレーゾーンに対する判断が、人によって変わってしまう」というテーマです。これに対して藤井からは、そもそもAI倫理において、“絶対に正しい物差し”を事前に作り切ること自体が難しい、という話をしました。
生成AIの領域では、価値観や社会情勢、利用シーンによって判断基準が変化します。そのため、「最初から完璧なルールを定義する」というよりも、“どう継続的に判断していくか”を設計することの方が重要になります。その上で、属人性を減らしていくためには、「仕組み」と「運用」の両方が必要になるという話をしました。
例えば、
- 事前に倫理観点を検討するレビュー工程を作る
- 判断理由を記録として残す
- 実際に市場へ出した後のフィードバックを回収する
- 社会からの反応を踏まえて改善する
といったプロセスを組織の中へ組み込んでいくことが重要になります。
また、「誰が、何を考え、どのような判断をしたのか」をドキュメントとして蓄積していくことで、後続の意思決定へナレッジを活かしていくことも可能になります。さらに、そうした過去の判断ログをRAGなどへ取り込み、「社内AI倫理ボット」のような形で活用することで、組織全体として判断品質を平準化していく可能性についても議論を行いました。
「インシデント発生前提で考えるべきではないか」という議論について
もう一つ議論になったのが、「AI活用において、インシデント発生を前提に考えるべきではないか」というテーマです。これに対して藤井からは、「インシデントを100%なくすことは現実的には難しい」という話をしました。
特に、新しい挑戦を行う以上、一定のリスクは必ず存在します。場合によっては、法的論争や社会的批判が発生する可能性もあります。そのため、重要なのは「絶対に事故を起こさないこと」だけではなく、「インシデントが起きた時に、どう対応するか」まで含めて設計しておくことです。
例えば、
- 誰が意思決定を行うのか
- どの部門を巻き込むのか
- どのタイミングでエスカレーションするのか
- 社外へどう説明するのか
といった点は、事前に整理しておく必要があります。
また、インシデント対応は単なる技術問題ではなく、企業ブランドや社会的信頼にも直結するため、法務部門だけでなく、経営企画、広報、ブランド管理などの部門も含めて取り組むことが重要である、という話もしました。こうした“インシデント前提の設計”まで行うことで、企業はより安心してAI活用へ挑戦できるようになる、という点について議論を行いました。
AI Responsibility Talksについて
AI共創総研では、「AI Responsibility Talks」と題し、企業におけるAI活用とガバナンスの両立をテーマにした情報発信を継続的に行っています。生成AIの活用が加速する中で、多くの企業では、「どこまでAIを使ってよいのか」「どのように統制すべきか」「どう現場運用へ落とし込むべきか」といった悩みを抱えています。
私たちは、単なる規制対応やチェックリスト運用の話だけではなく、“AIを安全に前へ進めるための統制”とは何かを、実務の視点から発信していきたいと考えています。今後は、AIガバナンスやAI倫理、AIリスク管理、AIセキュリティといったテーマに加え、AI活用推進、Human in the Loop、AIエージェント時代の組織設計なども含め、ウェビナーや対談形式で継続的に情報発信を行っていく予定です。
引き続き、「AI Responsibility Talks」をご視聴いただけますと幸いです。
NECのデジタルエシックスの取り組みについて
NECでは、デジタル技術と倫理の両立を目指した取り組みを継続的に推進しています。特設サイトでは、本ウェビナーでも触れられた消費者意識調査レポートをはじめ、デジタルエシックスに関する様々な情報を公開しています。
また、「デジタルエシックスで経営の未来を拓く―有識者と語る10の視点」というシリーズでは、各界の有識者とNECメンバーが、テクノロジーと倫理、社会実装などといったテーマについて対談形式で議論を深めています。
今回のウェビナーで取り上げたような、「法制度では整理しきれないグレーゾーンへの向き合い方」や、「企業と社会の信頼関係をどう構築していくか」といったテーマについても、対談の中で多くのエッセンスが語られています。
ご関心のある方は、ぜひこちらからご覧ください。
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