相次ぐ情報漏洩から学ぶ 生成AI時代に企業が見直すべき統制とは
2026年9月から10月にかけて、国内企業で情報漏洩やそのおそれに関する発表が相次いでいます。第一興商、タイムズカー、RIZAPの事案を読むと、外部からの攻撃だけでなく、委託先に保管したデータや、社員による生成AIへの情報入力にも目を向ける必要があると分かります。
企業が見直すべき統制とは、情報の保管・利用・外部提供を管理し、その実施状況を確かめる仕組みです。本記事では、各社が公表した事実を整理したうえで、情シスやAI活用の担当者が自社の運用を点検するための考え方を示します。
1. 相次ぐ情報漏洩で、何が起きているのか
第一興商:委託先の端末に保存された情報への影響
第一興商の10月8日の発表によると、個人情報の取扱いを委託する日本コロムビアグループの従業員PC1台で、マルウェアへの感染が判明しました。その端末には委託業務に関する個人データが一時保管されており、顧客・従業員情報の合計約872万4,000件に漏洩のおそれがあるとしています。
発表時点では、実際の外部漏洩や不正利用は確認されていません。自社システムへの影響も確認されていないと説明しています。この事案から自社を点検する際は、社内のサーバーに加えて、業務のために情報を渡す相手や、その保管場所まで確認対象に含めることが重要です。
タイムズカー:本人確認書類を含む情報の漏洩
パーク24が9月28日に公表した第2報では、タイムズカーのWebシステムへの不正アクセスにより、約660万アカウントの情報漏洩を確認したとしています。対象には退会済みの利用者や、入会手続きが完了していない人も含まれます。9月29日の第3報では、運転免許証画像などの本人確認書類が漏洩したアカウントは約160万件と説明しました。
ここで自社が確認すべきなのは、情報の件数だけでなく、保管している情報の種類と必要性です。本人確認のために取得した書類や、取引が終了した人の情報について、保存の根拠・期間・管理方法を説明できるかを点検する必要があります。
RIZAP:社員が個人利用の生成AIへ顧客情報を誤送信
RIZAPの9月3日の発表によると、社員がデータ集計作業中に、個人で利用する外部生成AIサービスへ顧客情報を誤ってアップロードしました。対象には氏名などに加え、疾患情報を含むデータがありました。同社は事業者への照会により、AIの学習への利用や、当該事業者以外の第三者による閲覧の可能性はないことを確認したと説明しています。一方、事業者の役職員等が閲覧できた可能性は確認中としています。
学習に使われなかったことと、外部への情報提供を適切に管理できていたことは、別の確認事項です。生成AIへの入力では、学習利用の設定だけでなく、送信先と情報の取扱いを確認する必要があります。
2. 不正アクセス対策は、業務システムやAPIまで点検する
JPCERT/CCは10月8日に公表し、9日に更新した注意喚起で、国内組織における不正アクセス被害を取り上げています。一般利用者向けのアプリに加え、データ分析に使うBIツールや従業員向け管理システムにも被害が生じていると説明しています。
確認されている手口には、既知の脆弱性や管理不備の悪用、API経由の不正な操作などがあります。APIとは、ソフトウェア同士が情報の取得や処理を依頼するための接続口です。同センターは、APIごとのアクセス制御、権限の最小化、認証用トークンの期限設定・無効化などを推奨しています。ただし、すべての事案が同じ手口によるものとはしていません。
自社での点検では、利用者が操作する画面だけでなく、その裏側でデータを取り出せる接続先を把握することが必要です。例えば、画面では担当顧客しか表示されなくても、データ取得の処理で同じ権限制限が働いているかは別途確認します。
この確認は、AIに社内システムを接続する際にも役立ちます。以下は各社で確認された原因の説明ではなく、企業がAI活用を進める際の管理上の提言です。接続先、利用者、実行できる処理、扱うデータの範囲を整理し、接続後も設定と利用記録を確かめる運用が求められます。
3. 生成AIの利用で、情報の移動先を把握しにくくなる
入力する前の確認を、業務手順に組み込む
生成AIで集計や文書作成を行う場合、利用者には「作業を依頼する」という意識があっても、実際には入力したデータを外部サービスへ送信することがあります。社内で許可されたサービスか、利用する契約やアカウントでその情報を扱えるかを、入力前に判断できるようにする必要があります。
会社の承認を得ずに業務へ使うAIはシャドーAIと呼びます。管理のためには、許可されていないサービスを使わないという周知と併せて、現場が利用できる承認済みの環境や、判断に迷ったときの相談先を用意することを提案します。
「学習に使わない」という条件だけで判断しない
サービスの選定時には、学習利用の有無に加え、保存期間、運営事業者によるアクセス、データの削除方法、外部サービスとの連携を確認します。契約や設定により取扱いが異なるため、サービス名だけで一律に利用を認める運用は避けたいところです。
例えば、契約書の要約を依頼する業務なら、公開済みのひな型と、顧客名・価格・未公開条件を含む契約書では、必要な確認が異なります。これは説明のための業務例です。扱う情報と利用目的をセットで判断することで、現場が確認すべき内容を明確にできます。
4. 企業への学び:情報の取扱いを管理する統制を見直す
ここからは、前述の事案を踏まえた自社点検の提言です。まず、情報がどこにあり、誰が、何のために使い、どこへ渡しているかを整理することから始めます。
保管する情報と削除する時期を決める
システムごとに、保管する情報、利用目的、管理責任者、保存期間を台帳にまとめます。法令や契約上の保存が必要な情報と、業務上の目的を終えた情報を区別し、削除してよい時期を責任者が判断できるようにします。退会や契約終了だけを理由に一律削除する運用にも注意が必要です。
確認対象には、元のデータベースのほか、集計用の表計算ファイル、バックアップ、共有フォルダー、委託先への提供データも含めます。保存期間を定めた後は、削除を実行し、その結果を確認する担当者まで決めます。個人の作業用フォルダーに残る複製も、管理対象から外さないことが大切です。
閲覧・ダウンロード・外部送信の権限を分ける
情報を見る権限と、大量にダウンロードする権限、外部へ送る権限は、それぞれの業務上の必要性で判断します。担当業務が変わったときや委託契約が終了したときに、権限の変更・失効が実行される手順も設けます。
AIを社内の検索機能に接続する場合も、回答に使える情報の範囲を、利用者の権限に合わせて設計します。点検では、権限の異なるアカウントを使い、閲覧を許可していない情報が検索結果や回答に含まれないかを確認します。利用記録には誰が何を実行したかを残し、異常な大量取得を調べられるようにします。
委託先に渡した情報の保管・削除まで確認する
委託先管理では、契約の締結時だけでなく、業務の実態に合わせて確認を続けることを提案します。提供する項目や件数を必要な範囲に絞り、次の事項を担当者間で確認します。
- 保管場所と、個人端末への保存を認める条件
- データを扱う担当者・再委託先の範囲
- 作業終了時の返却・削除と、その確認方法
- 事故が疑われた際の連絡先、報告内容、報告期限
例えば、顧客名を使わずに集計できる業務なら、作業用IDに置き換えたデータを渡せないか検討します。ただし、IDへの置換だけで匿名化が完了するとは限りません。残る項目との組合せで個人を識別できないかも確認します。
AIの利用基準を、現場が判断できる形にする
AI利用の承認台帳には、サービス名、契約・プラン、利用アカウント、対象業務、入力できる情報の範囲を記録します。判断基準は「機密情報は禁止」とだけ書かず、公開情報、顧客情報、社内限定資料などの扱いを、業務例とともに示します。
例外申請では、必要な理由、代替手段、送信する項目、利用期間を確認します。承認後も新しい連携機能や契約条件の変更があれば再確認する運用にします。研修では、ファイルのアップロードや貼り付けを含む場面を取り上げ、利用者が自分の作業に当てはめて判断できるようにします。
5. 事故の疑いが生じたとき、すぐ動ける体制を作る
統制の見直しには、事故を防ぐ対策と、発生後の対応の両方を含めます。情報の誤送信や不正アクセスを疑ったときに、担当者が上司の不在や原因の未確定を理由に報告を待たないよう、疑いの段階で連絡できる窓口を明示します。
初動では、担当者が独断で操作を続けることを避け、指定した対応責任者が次の作業を調整します。
- 追加の送信やアクセスを止めるための措置
- 発生時刻、対象データ、操作内容、ログ等の記録・保全
- サービス事業者や委託先への照会、影響範囲の確認
- 法務・個人情報保護担当と連携した報告・通知の判断
生成AIへの誤送信では、履歴を削除しただけで解決と判断せず、事業者側の保存・閲覧・削除の状況を確認します。調査記録には、確認済みの事実と未確認事項を分けて残します。関係者への説明も「漏洩のおそれ」「漏洩を確認」「不正利用を確認」を区別し、調査の進展に応じて更新します。
平時には、個人情報を含むファイルの誤送信や、委託先からの事故連絡を想定した短い訓練を行うことを提案します。連絡がつくか、必要なログを取得できるか、誰が利用停止を判断するかを確かめ、実行できなかった手順を修正します。
6. まとめ
今回取り上げた事案では、Webシステム、委託先の端末、社員が使う生成AIという異なる場所で情報の取扱いが問題になりました。公表された被害の状態や発生経路を区別したうえで、自社の情報管理を点検することが必要です。
企業が見直すべき統制は、保管から利用、外部提供、削除、事故対応までを管理する仕組みです。情シス・AI活用部門・業務部門が協力し、重要な情報を扱う業務から、責任者と確認記録を整理していきます。規程に書かれたルールが実際の作業で使え、実施状況を確かめられる状態を目指すことが、生成AI時代の情報管理につながります。
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参考文献
- 第一興商「委託先における個人情報漏えいのおそれについて」(2026年10月8日)。公式発表
- パーク24「タイムズカーWebシステムへの不正アクセスに関する調査結果および今後の対応について(第2報)」(2026年9月28日)。公式発表
- パーク24「タイムズカーWebシステムへの不正アクセスに関する調査結果および今後の対応について(第3報)」(2026年9月29日)。公式発表
- RIZAP「当社における外部生成AIサービスへのお客様情報の誤ったアップロードに関するお詫びとお知らせ」(2026年9月3日)。公式発表
- JPCERT/CC「直近で相次いでいる国内組織における不正アクセスに関する注意喚起」(2026年10月8日公開、10月9日更新)。注意喚起

この記事の著者
花島一颯 (Hanajima Issa) | AI共創総研 コンサルタント・リサーチャー
東京大学工学部 機械工学科(熱エネルギー工学研究室)に所属。主に熱電変換技術を専門とし、新デバイスの開発研究に従事している。特に、デバイスの出力分析や、熱流体現象としての対流効果に着目した解析を行っている。日本伝熱学会での発表経験を有する。現在はAIリスク・セキュリティ分野での研究も行っており、コンサルティング業務を担当している。







